大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和55年(ワ)11658号 判決

原告

金春子

原告

秦兼鎬

右両名訴訟代理人

横田俊雄

被告

洪玉順

右訴訟代理人

円谷孝男

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実《省略》

理由

第一請求原因について

被告が、原告らに対し、昭和五三年一二月二三日貸金請求事件を提起し、原告ら欠席のまま昭和五四年二月二七日被告勝訴の判決がなされたことは当事者間に争いがない。そして、右判決は当事者間に有効に確定しているから、その既判力は、判決事項が後の訴訟で争われたときには、右の判断に反する判断をすることを裁判所に禁止するものである。素より既判力は、当事者間の実体法の関係に介入するものではなく、紛争の解決のために、判決の判断に付着して、訴訟法が確定判決に付与したものであるが、裁判所は判決事項については判決の判断を基準としてこれに従わなければならないから、訴訟において当事者がこれに反する主張をしたときには、その主張を排斥しなければならない。したがつて、いわば反射的に当事者もまた判決の既判力ある判断に反する主張をすることは許されない。

一般に、原告の請求がそのまま認容され、判決が確定し強制執行により利益を享受したあと、被告(執行法上の債務者)が、訴え提起にはじまる一連の行為もしくは個々の行為を不法行為と主張し、原告(執行法上の債権者)に対し損害賠償を問いうるかは、判決の既判力との関係で問題になり、消極、積極の両説があるが、既判力を前述のように理解する以上、仮に積極説をとるとしても、確定判決が原告の信義にもとる行為によつて、被告が現実に前訴の手続に参与しないままになされている等違法性の態様が、法的安定の点を考慮しても信義則上容認し得ない場合に限られるのであり、実体的に権利が消滅しているような場合を含まないと解するのが相当である。

原告らの主張は、結局、実体的に前訴の請求権が、訴え提起時、既に消滅していたことを前提とするものであつてかかる主張は、既判力によつて許されないものである以上、原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

第二なお、原告らは、昭和四四年七月八日の最高裁第三小法廷判決を引用して、本件は確定判決の既判力が及ばない場合である旨主張するので、この点について付言する。

右最判は、「判決の成立過程において、訴訟当事者が、相手方の権利を害する意図のもとに、作為または不作為によつて相手方が訴訟手続に関与することを妨げ、あるいは虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔する等の不正な行為を行ない、その結果本来ありうべからざる内容の確定判決を取得し、かつこれを執行した場合」には、相手方は不法行為による損害の賠償を請求しうる旨判示しているのであるが、損害賠償請求が許容される場合とは、訴訟当事者が相手方の住所を不明であるといつわつて公示送達の許可を得て相手方の知らない間に勝訴の確定判決を得た、とか訴え取下の合意をして相手方不出頭の原因を自ら作つておきながら、合意に反して訴えを取り下げず、相手方の不出頭を奇貨として訴訟追行して勝訴判決を得た場合のように、相手方の裁判を受ける権利が実質的に侵害された場合のことなのであり、実体的請求権が既に消滅しているにもかかわらず、敢えて訴えを提起したというような場合にまで請求を許容する趣旨ではないと解する。

本件についていえば、〈証拠〉によると、前訴手続において原告らが訴状、口頭弁論期日呼出状、答弁書催告書などの送達を受けていること、原告金春子が前訴判決言渡期日に出頭していることが認められ、このような事実に照せば、本件が被告の行為によつて原告らの裁判を受ける権利が実質的に侵害された場合に該らず、前記最高裁判決とは、事例を異にする場合であることは明らかである。

第三結語

よつて、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(畔柳正義)

計算書〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例